【仮想化基盤運用コラム】第11回 

運用のもう一つのルール(前編)

紫藤 泰至

・ルールその1:払い出す仮想マシンのルール
・ルール化の基本は、ハンバーガーショップにあり
・仮想化基盤の「セット」

前回は、運用をより「うまくいく状況」にするためには、依頼主とのやりとりをスムーズにする必要があると説明しました。依頼主とは仮想マシンの作成を依頼する人になります。依頼されて仮想マシンを作成(払い出し)する人が運用の人となります。その依頼主と運用の人双方に関係するルールを作ることを説明しました。

この「双方に関係する」部分が重要です。前回ご説明したルールは、運用の人が守るべきルール、言わば身内のルールでした。今回は第三者、依頼主が加わります。こちらの方がルールらしいですね。スポーツのように、味方のチーム、相手のチームと別れていて、かつお互いが守るルールと考えていただければ、とてもイメージがしやすいと思います。

スポーツは競技ですから、お互いに守るべきルールがあります。ルールがない状態を想像してみてください。「何でもあり」の状態ですと、競技自体が成り立ちません。競技に参加する選手の安全も損なわれます。サッカーや野球などで遅延行為に対してペナルティが与えられるように、競技のスムーズな進行のためにもルールは必要になります。

仮想化基盤運用も同様に、仮想マシンの払い出しなどの運用業務をスムーズにするために依頼主と運用の人双方に関係するルールが必要になります。

ルールその1:払い出す仮想マシンのルール

このルールは大きく二つに分けられます。一つずつご説明していきます。

まずは、「提供するもの」のルールです。仮想化基盤運用の世界で提供するものは「仮想マシン」でした。したがって、ルール化するのは、「仮想マシン」になります。

コラム第7回「仮想化基盤の仕組み」 では、コンピュータのハードウェアのことをご説明しました。コンピュータには、大きくCPU、メモリ、ディスクの三つの要素があり、この三つの要素が仮想化されたものが「仮想マシン」になります。

仮想マシンを払い出すとき、それぞれの要素を好みに応じて変更することができます。例えば、CPUは1個、メモリは4G(ギガ)バイト、ディスクは500Gバイト等です。更にこれらの要素に加え、仮想マシン上で動かすOSも選ぶことができます。

選ぶことができるということは、選択をしなければいけないということです。仮想マシンの依頼主は、三つの要素の量を決める必要があるため、これから作ろうとしているシステムの動き方を頭に入れ、三つの要素の量を考えます。これを専門用語で「サイジング」と言います。

この「サイジング」のお仕事は結構大変です。例えば、ディスクの量です。少なければ、データがあふれてしまい、コンピュータ上の処理に支障が出ます。最悪、システムが停止することもあります。では、足りなくて困ることがないように、多めにディスクを確保するのはどうでしょうか?ちょっともったいないですよね。限られた予算の中でやりくりするので、できるだけ過不足ない状態にしたいです。このようになかなか難しい作業なのですが、実際には仮想マシン上で稼働するアプリケーションで必要な量が指定されている場合や類似しているシステムを参考にしてサイジングをしていきます。

さて、仮想マシンの要素の量がそれぞれ決まったところで、依頼主は運用する人に対して仮想マシンの払い出しの依頼をします。

ルール化をしていない場合、二つの問題が発生する可能性があります。

①依頼主の問題 ⇒ 細かく量を設定できるけど、どこまで細かくしていいかわからない
②運用する人の問題 ⇒ 細かく量を指定されたはいいけど、設定をするのが大変(ミスが起きたら、なお大変)

現在の仮想化基盤では、細かく量を指定して、仮想マシンを作成し払い出すことは可能です。例えば、ディスクの量を500Gバイトではなく、501Gバイトと細かく指定もできます。

可能は可能なのですが、依頼をする人は大変です。CPUはいくつで、メモリはいくつで、え~とあとは…、なんてことになります。一方、仮想マシンを払い出す運用の人も大変です。払い出す仮想マシン、1台ずつ依頼された内容を確認して、コツコツ作業をしなければいけません。

そこでルールの登場です。

ルール化の基本は、ハンバーガーショップにあり

ここで、たとえ話をさせてください。大手チェーンのハンバーガーショップで、食事をする際の注文の仕方をイメージしていただければと思います。

皆さんは、ハンバーガーショップでの注文はどのようにされていますか?

多くの方は「○○バーガーのセット、サイドメニューはポテト、ドリンクはオレンジジュースで!」と注文されることでしょう。簡単ですよね。これで事が足りるようなシステムになっています。

ここで注目すべきは「セット」の概念です。チーズバーガーの「セット」と注文すると、メインディッシュのチーズバーガーに、サイドメニューとドリンクが添えられることになります。また、指定をしなければ、サイドメニューのポテトとドリンクはMサイズとあらかじめ決められていたりします。

この「セット」は、注文する側、提供する側双方にメリットがあります。


「セット」


「セット」にすると、どうなるのか

「④提供しやすい」は、注文する側のメリットにもつながります。注文の仕方が固定されると、提供までの作業も固定化でき、作業を簡素化することができます。結果、提供までのスピードをアップすることで、注文する側も早く商品を受け取れるようになります。

仮想化基盤の「セット」

ここまで、セットの考え方をご説明しました。ハンバーガーショップの例を仮想化基盤運用へ当てはめてみましょう。仮想化基盤運用で提供する商品は、運用する人が払い出す「仮想マシン」になります。


仮想化基盤運用


仮想化基盤運用を「セット」にすると

仮想マシンを注文するときは、仮想マシン上で稼働するOSの種類(セット)と三つの要素の量(大盛・普通盛)を決めればいいことになります。このように、提供する仮想マシンを「セット」という方法でルール化することが可能です。
(後編につづく)

<著者>
紫藤 泰至

<経歴>
メインフレームからのシステム運用の経験を活かし、お客様のシステム運用をデザインする業務を歴任。現在は、仮想化基盤(プライベートクラウド)運用、運用自動化をデザインするコンサルティングに従事。ITIL Expert保有。

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