前回は、仮想化基盤の概要について説明をしました。今回は、その仮想化基盤を運用することについて解説をしていきます。
第1回のコラムで、「仮想化基盤」を「黒船」に例えました。黒船は、200年以上にわたって鎖国を続けてきた日本に対し、開国を迫りました。おそらく当時の日本人にとって、黒船は「脅威」と映ったでしょう。これはITシステムの「運用」にとっても同様で、「仮想化基盤」以降とそれ以前の運用は、かなり様相が変わりました。
ではなぜ「仮想化基盤」が「黒船(脅威)」なのか、「仮想化基盤」がやって来て「運用」の何が変わったのか、明らかにしていきましょう。
・「仮想化基盤」登場以前の「運用」
・「仮想化基盤」登場以降の「運用」は、ここが違う!
これまでも説明してきましたが、「運用」とはコンピュータの面倒を見て、コンピュータを正常稼働させ続けることです。これによって、“日々是好日”(毎日が何事もなく、無事でよい日である)を実現することを目指します。(※コラム第4回、コラム第5回参照)
もう1歩踏み込んだ説明をすると、コンピュータを正常稼働させ続けるためには、まずコンピュータが正常に稼働していることを「見張る」役割が必要になります。これを「監視」と呼びますが、たくさんあるコンピュータを人の目で1つずつ監視することは現実的ではありません。そこで、コンピュータが正常に動いていることを監視するためのコンピュータを作ります。
もし、あるコンピュータが正常に動いていない場合には、監視をするコンピュータが「運用」する人にそれを知らせます。コンピュータが正常に動かなくなる原因は、色々あります。例えば、コンピュータの故障やネットワークが切れてしまった場合などです。
監視をするコンピュータからコンピュータの異常を知らされた「運用」する人は、異常がある部分はどこなのかを調べて特定します。異常の原因を調べた上で、正常に動く状態に戻す(復旧)方法を考えます。コンピュータを正常な状態に戻すには、「運用」する人が全ての作業を行うわけではなく、原因によってはそのコンピュータを含むITシステムを作った人が来て対処するケースなどもあります。
これが、「仮想化基盤」以前の「運用」の流れでした。
さて、「運用」の流れに「仮想化基盤」が導入されると、何が変わるのでしょうか。
まず、「運用」する人は、基盤構成の複雑さと直面しなくてはなりません。仮想化基盤は構成自体が複雑であり、これまで以上に様々なITの知識を求められるようになりました。監視をするコンピュータが異常を検知しても、ITシステムの構成が複雑なので異常がある部分の特定が難しく、どういう対応をするべきかの判断に時間がかかるようになってきました。
また、コンピュータが正常に動く状態にするためには、様々な「管理」が必要です。
例えば、どんなコンピュータがどこにあるのか、これまで正常に動かなくなった事象ではどのようなことが原因だったのか、その対策は何か、コンピュータのリソースは足りているか、新しく入るコンピュータは何か、このコンピュータは誰が使っているのか、そのコンピュータは予定通りの仕事をしているのか、災害が発生してコンピュータが使えなくなったらどうするのか、等々。
こうした様々なことを把握する、つまり「管理」することによって、コンピュータが正常に動く状態にすることができます。また仮に異常が発生した時も短時間で正常な状態へ戻す対応が可能になるのです。
更に、「仮想化基盤」が導入されることにより、「仮想化基盤運用」特有の新たな管理が発生します。
例えば、どの仮想コンピュータがどの物理コンピュータの上に乗っているのかを正しく把握しなくてはなりません。なぜかというと、物理コンピュータに異常があれば、その上に乗っている仮想コンピュータにも影響が及ぶ可能性があるからです。事前に仮想コンピュータの配置状況を把握することで、万一の時の影響範囲を特定し、素早い対応ができるように備えるのです。
このように「仮想化基盤」が導入されることによって、「運用」する人の担う仕事に次の2つの変化が出てきました。
・難度が高くなった
・仕事量が増えた
しかし、これだけでは「仮想化基盤」=「黒船」とは言い切れません。なぜなら、技術の進歩によって、「運用」する人が学ばなくてはいけないことが変わってきた場面は、これまでにもあったからです。私の経験では、「運用」の対象が大きな1台のコンピュータから、小さな複数台のコンピュータにシフトしていった時(※コラム第3回参照)がそれにあたります。
こうした変化が起こるたびに、「運用」する人たちは日々技術的な知識を収集することで、技術の進歩に追いついてきました。今回の「仮想化基盤」導入にあたっても、「運用」する人たちは勉強を重ねて困難を克服しました。
では、本当の黒船(脅威)はどこにあるのでしょうか。
それは、「運用するコンピュータ(ITシステム)がどこからやってくるか?」の流れが変わってしまったところにあります。
第6回のコラムを振り返ってみましょう。この回では、ITシステムに関わるプレーヤーとして「描く人」「作る人」「動かす人」が出てきました。
右の図のように、「運用」をするコンピュータは、「作る人」からやって来ます。「作る人」が作ったコンピュータ(ITシステム)を「動かす人」である「運用」する人に渡すわけです。これがITシステムの役割分担でした。
ここでの注意点は、「作る人」が作ったコンピュータ(ITシステム)は、ハードウェアのみではないということです。コンピュータにはOSやソフトウェアが入っていて、処理ができる状態になっています。つまり、「作る人」はハードウェアを買ってきて、必要なソフトウェアを入れて、「描く人」が描いた動きができるようにするまでが仕事でした。そして「運用」する人である「動かす人」は、「作る人」から引き取ったコンピュータ(ITシステム)の面倒を見ます。
しかし、「仮想化基盤」が導入されると、物理コンピュータのハードウェアを既に保有しているので、新たにハードウェアを買う必要はありません。既存の仮想化基盤(物理コンピュータ・ストレージ)のリソースに余裕があれば、仮想コンピュータを作ることができます(仮想コンピュータを作ることを「払い出し」や「切り出し」といいます)。
問題となるのは、この仮想コンピュータの「払い出し」作業を誰が担当するかです。
「作る人」は、基本的にITシステムを作ることが仕事です(専門用語でプロジェクトといいます)。
しかし、「運用」する人はコンピュータ(ITシステム)が作られてから役目を終えるまで絶えず面倒を見続けるため、常に日々の作業に関わります。
それなら、「払い出し」は「運用」の人が担当すればいいじゃないかということになりました。常にITシステムで作業をしている人が、仮想コンピュータを「払い出し」できれば、それだけコンピュータを「作る」作業が早くなるからです。
ところが、そう簡単にはいきません。これまで長い間、「作る人」が作ったものを「動かす」ことが「運用」する人の仕事でした。しかし、「払い出し」をするということは、「作る人」の仕事の一部を担うことになります。急に新しい仕事を押し付けられて、「運用」の人は戸惑いました。しかも、これまでにやっていたことの範囲外の仕事であり、技術的にも「作る人」の知識・ノウハウが必要です。
当然、「運用」する人は抵抗しました。「前例がない」「ノウハウがない」など、色々な理由をつけて、「払い出し」が「運用」する人の担当ではないことを主張しました。
実は「払い出し」の作業自体は簡単で、ものの10分もあれば、簡単な仮想コンピュータを作ることができます。では、なぜそんなに抵抗をするのでしょうか?
それは、「運用」する人に「意識の壁」 があるからです。
これまでの常識にとらわれて、技術の進歩と時代の変化に「意識」が追いついていないのです。メリットがあると分かっているにも関わらず、なぜか踏み込めない状態です。しかし、幕末に黒船が来て開国を迫られたように、「仮想化基盤」の普及により「運用」する側の意識を変える必要が出てきたのです。
これが、「仮想化基盤」を黒船と呼ぶ理由です。明治維新もそうであったように、変化は人間の意識の問題です。「運用」する側も意識を変えていかなくてはいけません。
それでは、当社ではどのようにこの大きな変化を乗り越えたかというと、変化に対応した「運用」を徐々に形作ることで解決策を導き出しました。
次回のコラムでは、「仮想化基盤運用を作る」をテーマに解説をしていきます。
<著者>
紫藤 泰至
<経歴>
メインフレームからのシステム運用の経験を活かし、お客様のシステム運用をデザインする業務を歴任。現在は、仮想化基盤(プライベートクラウド)運用、運用自動化をデザインするコンサルティングに従事。ITIL Expert保有。
CTCシステムマネジメントコラム
CTCシステムマネジメントコラムでは、ITシステム運用の最新動向に関する特集・コラムがご覧いただけます。