【無線LANコラム】第8回 「令和のWi-Fi」

高橋 孝文

1. Wi-Fi6とは?
2. Wi-Fi6の用途
3. 平成のWi-Fiのつらいところを解決する!令和の新技術
4. Wi-Fi6の強み

1. Wi-Fi6とは?

これまで「Wi-Fi」という言葉はたくさん見聞きしてきたけれど、「Wi-Fi6」の「6」って何?と思われる方も多いのではないでしょうか。

「Wi-Fi6」とは、「第6世代のWi-Fi」という意味です。これまでWi-Fiは「IEEE」という団体が決めた標準化規格で呼ばれてきました。例えば、現在幅広く使われているWi-Fiの規格は「IEEE802.11ac」です。しかしながらこの表記はわかりづらい為、「Wi-Fiアライアンス」という団体により新たな名称が定められました。

新しい命名規則では、「IEEE802.11ac」を「Wi-Fi5」、そして最新の規格である「IEEE802.11ax」を「Wi-Fi6」と呼びます。

2. Wi-Fi6の用途

Wi-Fiの強みは何といってもその圧倒的な普及率です。

現在、世界中で使用されているWi-Fi用のデバイスは130億個程度と言われています。利用にあたり手続きや制限もなく、機器の値段も安価な為、導入のハードルが低いのも特長です。

今後もオフィスネットワークで利用される無線としてはWi-Fiが主流になると考えられますが、Wi-Fi6に関してはオフィス以外での用途も広く検討されています。

例えば、IoTへの活用です。たくさんの人や物から情報を得るための手段として、やはり手軽に導入できるWi-Fiは有力な手段として考えられています。

大変便利なWi-Fiですが、端末が増加した結果、接続するアクセスポイントの処理が追い付かなかったり、無線空間が混みあったりして遅れが発生しており、接続しづらいという問題が発生しているのも事実です。

そこでWi-Fi6では、現行のWi-Fiの課題を解決する技術が使われています。それをこれから見ていきましょう。

3. 平成のWi-Fiのつらいところを解決する!令和の新技術

業務用のPC、電車の中で使う私物スマートフォンなど、現在も様々な場面でWi-Fiを利用されているかと思いますが、常に快適で最高!という話は意外と聞きません。

多くの場合、以下の様な意見(愚痴?!)を聞きます。

「Wi-Fiには接続されている、電波も強い様に見える・・・それなのに遅い!」

これは、Wi-Fiの通信方法として「CSMA/CA」という方式が採用されており、同一のチャネル配下で通信できる機器は常に1台ずつである、という仕様による要因が考えられます。

簡単に説明すると、Wi-Fiに接続した機器は以下の様な動作をしています。

 ① Wi-Fiで通信をする前に、PCやスマホは「他のだれかが使っていないかな?」という電波利用状況の確認を行う
 ② 誰かが使っているな、と判断すると通信せずに少々待つ(少々の時間はランダム)
 ③ もう一度、電波利用状況を確認して、空いていたら通信を開始する
 ④ 空いていなかった場合、また待つ・・

ですので、利用するPCやスマホが多ければ多いほど、順番待ちの時間が増えてしまいます。

これが、電波は強くても通信が遅いという現象に繋がります。

ちなみにこのルールを守らないと、電波空間でデータが衝突して必要な情報が届かない現象が発生します。これが干渉です。干渉の例でよくあるのが、電子レンジとの干渉です。

Wi-Fi機器同士はCSMA/CAのルールを守りますが、電子レンジはそんなルールを知りません。(お弁当をあたためるのに必死です・・・)電子レンジから漏れ出す電波がWi-Fiの電波を邪魔(干渉)して、通信を阻害してしまうのです!

電子レンジの話は置いといて・・

そこで、何とかして複数の機器を同時通信させることはできないか?という観点で以下3つの技術がWi-Fi6に組み込まれました。

 ・BSS Coloring
 ・MU-MIMO
 ・OFDMA

アルファベットばかりで良く分からないですよね。

例え話を入れて、出来る限り分かりやすくご紹介したいと思います。

私(著者)はチーズケーキが大好きで、あちこちの美味しいお店を探しています。

そこで今回は、チーズケーキ探しの旅に例えて、各技術を説明したいと思います。



同一チャネルの干渉を軽減!「BSS Coloring」

BSS Coloringは、隣接するアクセスポイントごとに違うColorを設定し、アクセスポイントが同一チャネルでもColorが異なる場合は無視して通信できる仕組みです。これにより、Wi-Fi機器同士のチャネル干渉による影響を最小限にし、通信のキャパシティを増やすことが出来ます。

例えばケーキ屋さんが集まるエリアで、お店の看板が全て同じなら、チーズケーキを探している人もデコレーションケーキを探している人も有名店に集まって混雑してしまいます。BSS Coloringは各店が同じケーキ屋さんであっても、 それぞれ目玉商品を看板に明記している と思ってください。チーズケーキを探している場合は、チーズケーキ専門店を目指しますし、デコレーションケーキを目指している人はデコレーションケーキのお店に行きますので、 混雑を緩和することが出来ます




同一チャネルの干渉を軽減することで通信のキャパシティを増やし混雑を緩和します。


アンテナの数を有効活用!「MU-MIMO」

通常、PCやスマートデバイスにはWi-Fi用アンテナが数本入っています。

これは通信感度を良くする目的や、通信速度を増加させる事を目的に搭載されています。

例えば最新型スマホの場合、2本のアンテナが搭載されているものが一般的です。

電波を送出するアクセスポイントがアンテナを4本持っていた場合、スマホのアンテナは2本なのでアンテナ2本分の速度で通信が可能です。しかし、アクセスポイント側の残りの2本がMU-MIMO実装前だと効果的に使えていませんでした。

MU-MIMOが実装される事により、残りの2本のアンテナは別のクライアントと通信出来る事ができる様になりました。MU-MIMOのMUは、「マルチユーザー」です。

残り2本なので、2本アンテナを持つ機器1台と通信ができますし、1本アンテナの機器を2台通信させる事も可能です。

チーズケーキ専門店に入ったはいいけれど、カウンターが一つしかなければ長蛇の列になってしまいます。MU-MIMOは 複数のカウンターで同時に複数のお客様の注文を聞くイメージ です。

この様に、従来1つのチャネル内で1台の機器しか通信できなかったWi-Fiが 同時通信可能となる事で、待ち時間の少ない=高速な通信が可能 になっていきます。



アンテナの数を有効活用することで待ち時間を減らし高速な通信を実現します。


1つのチャネルで複数端末の通信を実現!「OFDMA」

OFDMAとは、1つのチャネル内で複数の端末が同時に通信出来るようになった、先述のCSMA/CAの常識を覆す画期的な仕組みです。

1つのチャネルをさらに細分化して利用させる事で、複数の端末を同時通信できるように改善 されました。

無事にお目当てのチーズケーキが買えたけど、イートインスペースが大きなテーブル一つしかなくて一人が占領していると、その人が食べ終わるまで待たないといけません。OFDMAは、大きなテーブルがきちんと間仕切りで一人ずつのスペースに分けられているイメージです。これにより、 複数の人が空いている席を有効活用しながらスペースを共用 できます。

4. Wi-Fi6の強み

Wi-Fi6は増加し続ける端末によりしばしば劣化してしまうこれまでのWi-Fiの通信環境を解決する為に、上記のような技術を駆使しています。これにより、以下のような改善がなされています。

 ・スループット(通信速度)の向上

 ・電波の混雑による干渉の改善

 ・アクセスポイントに接続可能な端末台数の増加

 ・端末の消費電力改善

これまでは、人が多いところで使うと通信が遅くなることが多かったWi-Fiですが、Wi-Fi6では解消されると期待されています。理論上の通信速度を比較するとWi-Fi6は9.6Gbps、Wi-Fi5は6.9Gbpsで1.4倍程度の改善に見えますが、Wi-Fi6の実効速度(実際にユーザがデータ通信を行う際の通信速度)はWi-Fi5の4倍と大幅に向上すると言われています。

また、今回は詳しく触れませんでしたが、アクセスポイントに接続可能な端末数の増加、接続する端末の消費電力改善もWi-Fi6の大きな特徴です。IoTではデバイス側の電池寿命がたびたび課題として挙げられてきましたが、Wi-Fi6では気にすることなく使えるようになるかもしれません。

ここまでWi-Fi6の特徴をご説明してきました。しかし、これはあくまでも机上で検討された結果であり、実際にどのような動作をするかは利用してみないと分かりません。CTCSでは実際にWi-Fi6のアクセスポイントの動作検証を行っています。次回はその検証結果をご紹介したいと思います。

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