アプリケーション開発

SAP S/4 HANAへのシステムコンバーションにおける課題(第1回)

曽我部 勇哉

曽我部 勇哉

現在、多くの企業が、SAP ERP 6.0からS/4HANAへのマイグレーションの検討、実施を進めています。
今回のコラムでは2回に渡り、S/4HANAマイグレーションに向けた取り組みと、発生する課題、課題解決をサポートする当社のアセスメントツールをご紹介します。

  1. S/4HANAへのマイグレーションについて
  2. S/4 HANAへのシステムコンバージョン3つのフェーズ
  3. アセスメントを進めるための手法

1.SAP S/4HANAへのマイグレーションについて

まず、S/4HANAへのマイグレーションが必要な背景として、いわゆる「SAP 2025年/2027年問題」と呼ばれるものがあります。
これは、SAP社による「SAP ERP 6.0」のサポートが、EHP(エンハンスメントパッケージ)5以下の製品は、2025年12月31日、EHP6以上の製品も2027年12月31日をもって終了する事を指しています。

サポート期限が迫るにつれ、SAP ERP 6.0を利用している各企業は、SAP製品を継続して利用するか、それともSAP以外の製品に刷新するか、の判断を求められることになります。

SAP製品を継続して利用する場合は、大きく3つの方向性があります。

(1) 延長保守サービスを利用するなどして、SAP ERP 6.0を継続利用する

SAP ERP 6.0を継続利用する

(2) システムの再構築を行い、S/4HANAを新規で導入し直す

SAP S/4HANAを新規で導入

(3) 現行のSAP ERP6.0からシステムコンバージョンを行い、S/4HANAへマイグレーションする

SAP S/4HANAへマイグレーション

(1)の延長保守サービスを利用した場合も、サポートは2030年12月31日で終了となるため、いずれSAP製品を利用するか、SAP以外の製品に刷新するかの判断が求められることになります。
また、SAP ERP 6.0を利用し続けることは、SAP社のサポートを受けられない状態での運用となるため、運用・保守コストが増加するリスクがあります。

2025/2027年以降もSAPを継続利用する場合は、(2)のシステム再構築、または(3)のシステムコンバージョンのどちらかの方法で、現在のSAP ERPからS/4 HANAへバージョンアップする必要があります。

システム再構築とシステムコンバージョンのどちらが良いかについては一概には言えません。現在の導入プロジェクトでは、アドオンと呼ばれる各会社独自の作りこみをあまり行わず、S/4HANAの標準仕様に業務を合わせる事を原則としています(Fit to Standard)。
また、再導入の際には、従来のように各社がサーバを用意して製品を導入するオンプレミス版の他に、S/4 HANA Cloudと呼ばれるクラウドベースの製品の採用も検討されることがあります。

一方、システムコンバージョンは現行のSAP ERP6.0のシステム設定(カスタマイズ、アドオン)を引き継ぎつつS/4 HANAへマイグレーションを行う手法となるため、現行システムの要件・仕様を踏襲しながらS/4 HANAを利用したい場合に適した方法となります。最終的にどちらのマイグレーション方法を採用するかは、各企業のビジネス戦略に基づいて決定されることになります。

このコラムでは、システムコンバージョンを採用した場合の対応について解説していきます。

2. S/4 HANAへのシステムコンバージョン3つのフェーズ

S/4 HANAへのシステムコンバージョンを行う場合、大きく「準備・評価」、「実現化」、「本稼働」の3つのフェーズをたどってプロジェクトを進めていきます。(各フェーズの呼び方や作業詳細は作業を行うベンダーにより異なることがあります)

準備・評価・・・S/4 HANAにマイグレーションすることによる影響調査・分析、ユーザー要件を整理し、新システムの要件を確定する。
実現化・・・準備・評価フェーズで確定した要件を元に実装を行う。
本稼働・・・本番環境構築、サポートパッケージ適用の上、新システムを稼働する。

S/4へのシステムコンバージョン

S/4へのシステムコンバージョンSTEP

準備・評価フェーズにてまとめる「影響分析アセスメントレポート」がシステムコンバージョンを進める上で、とても重要なアウトプットとなります。

具体的な調査対象として、S/4 HANAへのマイグレーションによって変更が入るカスタマイズの影響、データべ―スの影響、画面仕様やトランザクションコードといった既存機能の変更箇所の確認などがあります。
例えば「標準画面における項目の追加削除や画面構成の変更などの影響」、「トランザクションコードの変更や機能の統廃合」、「今までの仕入先マスタ、得意先マスタがビジネスパートナーに変わる」など、ここに記載したものはほんの一部ですが、変更点は多岐に渡ります。

また機能面での影響だけではなく、非機能の影響箇所も調査、分析する必要があります。具体的にはUnicode対応、機能の統廃合によるジョブの見直し、オンラインやバッチ処理のパフォーマンス、権限、運用の見直しなどです。

このような数多く存在する調査分析、分析結果の評価を可視化し、システムコンバージョンにおける変更対象の漏れやシステム要件の認識齟齬を防ぐためのアウトプットとして「影響分析アセスメントレポート」は非常に重要な役割を果たします。

3. アセスメントを進めるための手法

前述のとおり、S/4 HANAへのマイグレーションに向けたアセスメントは膨大な調査となり、どれだけ調査を自動化出来るかが、工数削減かつ調査の品質向上のポイントとなります。

SAP社も影響調査・分析を行うために以下のような標準ツールを提供しています。

Maintenance Planner
SAPアップグレード時のガイド機能
Simplification Item Check
ERPからの変更点をNoteと紐づけてレポート
ABAP Test Cockpit
S/4 HANAへのマイグレーションによるアドオンコードの影響をレポート
UC Check
Unicode化による影響をレポート

上記の標準ツール以外にも、Panaya社などのサードパーティーベンダーが提供しているアセスメントツールやソリューションを利用することにより、標準ツールより広範囲・詳細な影響調査・分析が可能となっています。

しかし、Unicode化対応に関する影響調査・分析については、SAP社の標準ツールやサードパーティーベンダーのツールを使っても非常に限定的な調査となってしまうため、エンジニアが手作業で個別にプログラムを調査する必要があるのが現状です。

手作業によるプログラムの調査・確認、また調査漏れによる後フェーズでの手戻り工数なども含めると、Unicode化対応のコスト増をまねく大きな要因となっています。

カテゴリ S/4チェック項目 SAP標準 Panaya
システム 分析オブジェクトの使用未使用情報
システム複雑度チャート
アドオン・標準ビジネスプロセス アドオン修正情報
削除トランザクション情報
権限/ロール情報
モディフィケーション情報
S/4化に伴う標準設定の移行チェック情報
S/4で有効化される拡張機能
SAP社提供ECC追加機能のS/4互換情報
HANA2.0移行アドオン互換分析情報
テスト 推奨単体テスト
推奨新機能テスト
その他 周辺システムへの影響情報
Fiori推奨アプリケーションレポート
Unicode対応

この課題をどのように解決できるでしょうか。
次回は当社が提供しているツールを使用したUnicode化対応のアセスメントをご紹介します。



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