伊藤忠丸紅鉄鋼グループの紅忠スチールでは、鉄鋼メーカーから鋼板を受け入れ、ニーズに沿って加工し自動車部品メーカーへ納品している。高い品質や安定供給が求められるため業務フローなどは変更しづらかった。社外とのコミュニケーション手段は紙やファクス、メールが中心だった。
しかし、これらの手段がコロナ禍で課題になった。緊急事態宣言下でも、紙文書を処理するため出社の必要が出てきたのだ。そこで紅忠スチールは社外と、Web会議、タスク管理、情報共有などができるポータルサイトを、構想からわずか数カ月で立ち上げた。導入は低コストで操作も簡単。ITが苦手な従業員でも安心して使えるという。いったいどんなポータルサイトをどう実現したのか。
紅忠スチールは、伊藤忠丸紅鉄鋼グ ループの一員として、国内の自動車業界や建築業界向けに多種多様な鋼材製品を販売。その中で、自動車鋼材第 一部は自動車部品メーカー向けの製品を専門に扱う。
紅忠スチールが自動車部品メーカーから発注を受けると、それをコイルセンターと呼ばれる企業に送る。コイルセンターとは、鉄鋼メーカーとユーザー企業 をつなぐ流通業としての役割を担う企業。ロール状に巻かれた巨大な鋼板を鉄鋼メーカーから受け入れ、自動車部品メーカーの要求に合わせて切断、加工して納品を行う。鋼材は、自動車部品メーカーの生命線だ。この業界では、高品質な製品を必要なタイミングで安定的に提供することを最大の価値としてきた。
こうした安定性は、長年の工夫と経験のうえに実現されているため、業務フローやITシステムの変更には、人一倍、慎重にならざるを得ない。その結果、業務の標準化やデジタル化に後れを取り、紙やファクス、PDFのメール送信など、煩雑なやり取りが当前のように行われていた。
そこに起きたのが、コロナ禍だ。思うように出社できない状況になり、各社のコミュニケーションが瞬く間に滞ってしまった。緊急事態宣言の下でも、紙で届いた発注書をPDF化するためだけに出社する必要があった。
「この状況を一刻も早く解決したいという思いで『B-rings』の開発を決意しました」と、紅忠スチールの臼杵氏は振り返る。
2020年10月に、臼杵氏らはCTCシステムマネジメントに相談。実現したい内容を聞き、CTCシステムマネジメントの及川は「Microsoft365」を活用した仕組みを提案。
「時間が限られていたため、低コストかつスピーディに実現するにはこれがベストと判断しました」(及川)。そこから要件を詳しく整理し、開発、トライアルを経て、2021年春に実運用を開始。構想からわずか数カ月で実現した。
Microsoft365の設定を駆使した開発と並行して、「PowerAutomate」による自動処理の仕組みを構築。「Microsoft365の基本機能を迅速に組み合わせ、要件をどう実現するかに苦労しました」(及川)。
ポイントは、独自開発によるカスタマイズを避けたことだ。「独自機能を加えると、Microsoft365が定期更新される際に動かなくなるリスクがあります。また、余計な時間とコストがかかり、スピードの要求に応えられません」(及川)
SharePointを中心にMicrosoft 365の機能を活用し、紅忠スチール、得意先、コイルセンターとのコミュニケーション活性化を図る
「B-rings」は、紅忠スチールと取引先(自動車部品メーカーやコイルセンターなど)が1対1で共有する、安定性の高いクローズドなポータルサイトだ。このサイトから、チャットやビデオ会議など、あらゆるコミュニケーションと情報共有が可能。
最大のポイントは「SharePoint」で開発した「Dualフォルダ」だ。参加メンバーがセキュアに相互編集できる特別な共有フォルダで、ビデオ会議をしながらファイルの編集ができる。
紅忠スチールが受け取った発注書をDualフォルダに入れると、コイルセンターがそれを見て納期を確認し、そこに書き込む。自動車部品メーカーがそれを見て納期を確認。3社だけのクローズドな共有により、煩雑なメールのやり取りを廃止できた。
また、鉄鋼メーカーが製品出荷の際に発行する、大量の検査証明書(製品の特性値や成分値を記載)も、Dualフォルダで共有。以前はメール添付で何度もやり取りが発生していたが、業務改善に大きくつながった。
紅忠スチールの北原氏は「B-ringsだけで連絡が完結します。情報が散らばらなくなり、探す手間もなくなりました」と語る。また、同社の小磯氏は「容易に操作できる点が好評です。ITに不安がある方でも、安心して使えます」と評価。B-ringsでは、鋼材に関する資料や国内薄板市況、自動車の生産台数、鋼材原料の動向など、業務に必要な情報も共有。全てがワンサイトに凝縮され、どこからでも仕事ができる。
「B-ringsのような仕組みを求めている企業や業界は、ほかにも多数あるはずです」と、及川は語る。すばやく低コストで導入でき、若い世代からベテランまで容易に使えるポータルサイト。生産性を向上させる効果的な仕組みとして、注目を集めていくに違いない。
紅忠スチール株式会社様
所在地:東京都中央区日本橋1-4-1
日本橋一丁目ビルディング16階(コレド日本橋)
設立 :2013年10月1日
URL :https://www.st-benichu.com/
※本記事は2023年9月に取材した内容を基に構成しています。
記事内のデータや組織名、役職などは取材時のものです。